家の積み木と計算機
高齢になっても介護を必要としない親もいれば、世間からは若いと感じられる年齢から介護を受ける親もいます。

まだまだ親は元気と思っていたら突然介護が始まることもあります。

一人っ子だったら介護者は自分のみと分かりますが、子供が複数だったらどうでしょうか。

昔のように長男が老親を世話するのが一般的で無くなった現在では、親の介護が必要になった段階で、誰が介護者になるのか、もめるケースが増えてきました。

皆で助け合って親の世話をするのが理想ですが、現実にはなかなかそうはならないようです。

子供の性別、序列に関係なく、時には、親を可哀想と思った者、或いは独身者或いは単身者の子供に全負担がいってしまうという話はよく耳にします。

複数の子供がいても、介護にあたるのはその場にならないと分からない事例として、自分の体験をお話ししたいと思います。

老親の世話は長男と信じていた母

私の兄弟は兄一人。

兄と私がまだ10代の頃に父が亡くなり、父の友人が家屋の名義を母、兄、私の3名にした方が将来の税金対策になるとアドバイスをしたので母はそれに従いました。

ただ、昔人間の母は、長男である兄がいつかは自分の家に同居して親の面倒をみるだろうと考え、そうなったら兄に家と土地をあげたいと常々口にしていましたので、私は自分の相続分は放棄するものと考えていました。

結婚してからの兄はほとんど毎週末母を訪れていましたが、退職する10年ほど前に単身赴任で地方に行ってしまってからはあまり顔を見せなくなりました。

母の近くに住む兄嫁は母を訪れることはほとんど無かったので、一人暮らしの母の生活に不安が見られるようになってからは、私が週に3~4回通って世話をするようになりました。

そんな生活が2年近く続き、兄が退職することになった年、賃貸住宅に住んでいた兄の家族が突然自宅用の家を購入したと母から聞かされました。

兄から母に事前の相談は無く、購入してから事後報告したようでした。

その頃、母には認知症の症状が出始めていましたが、兄が自宅を購入したということで、精神的なパニックに陥りました。

しかし、自分の将来の世話に関して兄がどう考えているのか、問いただすのは怖いようで、私に愚痴を繰り返すのでした。

介護の意思は全く無い兄

兄の真意を確かめようと、私が兄に電話をしました。

その頃の母は、ひとりで家に置いておくのはもう限界のようになっておりました。

何度か電話を入れても、母の介護に関して兄ははっきりしたことを言いません。

兄夫婦に母と同居できない事情があるのなら、私が自宅を売って、古くて不便な母の家をリフォームして移り住んで世話をした方が良いのではと兄に尋ねました。

驚いたことに、その時、兄が初めて大きく異議を唱えたのです。

その理由として「あの家は俺にくれるとお袋が言っていただろう」と言った時には、私はびっくりしました。

母の面倒はみない、でももらうものはもらう、まさにそんなことを考えていたようでした。

私の記憶にあった兄は、欲が深い性格ではなかったのですが、兄嫁がシナリオを考え、兄は彼女から言われるままに行動しているのが感じられました。

退職した兄がローンを組んでまで家を買ったのは、数年後に母の家を売れば容易に完済できると夫婦で計算したのかと私は思い至りました。

私の生涯でこれほど怒りを感じたことはありませんでした。

母を一人で置いておくのはもう無理だったので、介護をする意思の全く無い兄と口論している時間の余裕はありません。

その数ヵ月後、自分の家をリフォームして母を引き取りました。

きっかけは病院に母が入院したことからでした。入院中私は毎日病院に通い、洗濯をしたり必要なものを届けたりしました。

兄夫婦は母が私の家に移ると自分達に不利になると考えたのか、病院に来ても、退院したら住み慣れた自宅に戻った方が良いと母を説得しているようでした。

母が一人で生活出来るかどうかは全く気にかけていないと、母と同じ病室に入院していた患者さんが私に教えてくれました。

認知症の症状が出始めていた母は、兄夫婦が訪れたあとは、私の家に移る不安が高まるのか精神的に不安定になるのでした。

7年に渡る在宅での一人介護

母は私の家に移り住み、在宅介護のまま7年後に亡くなりました。

兄達は全く手伝うこともなく、ほとんど顔も見せなかったので、実家を売っても兄にはお金を一切渡したくないと、母は私には強く言い続けていましたが、兄を目の前にすると自分の考えは全く言いませんでした。

ただ、私に対しての信頼は非常に強かったので、母が移り住んで1年後に私が代理になって家を売り、売却額を名義通りに3等分しました。

介護を始めてからの私は働けなくなっていたので、まとまったお金が入ってホッとしました。

私の分も母の介護費用にまわすことができ、不動産を3人の名義にしておいたのは、母と私にとってラッキーでもありました。

これからの高齢者が目指すこと

私の場合、兄が母の世話をしないとはっきり分かった段階で、私までもが母の世話を放棄したら、母があまりに可哀想と覚悟を決めたことで、単独介護をする状況になりました。

介護を始めた当初、自分の時間と身動きの自由が極限に制限され、自分の人生が無くなっていくつらさを経験しました。

どれほど認知症が進行しても、私のことが大好きで、感謝の言葉を言い続けていた母を、老衰で亡くなるまで傍らで看取ることができたのは良かったのですが、二人の娘たちには同じ体験をさせたくはないので、自分が入る施設などは事前に決めておこうと思います。

介護を通して痛感したのは、最後まで自分を気遣ってくれる人を一人でもつくっておかないと、高齢者の終末期は惨めなものになりかねないということでした。

在宅介護が無理で施設に入居することになっても、定期的に通ってその生活を見守ってもらえれば、施設のスタッフの扱いも違ってくるでしょう。

子供がいない人は、他人でもそんな人をつくっておくことが、安らかな老後につながるだろうと思います。