生け花を楽しむ女性ときどき、お年寄りがどのように感じながら歩行しているかを疑似体験してみるための公的機関の催しとして、手足の動きを制限するものを装着して階段を上ってもらうなどして、相手の立場を理解して思いやりの気持ちを持ってもらう試みが実施されています。

しかし、そのような場所にいって特別なものを身につけることがなくても、たとえば、腰を痛めて起き上がるのがつらくなった時などは、年中そのような思いをしている高齢者の心細さが分かるものです。

退職後のプランを早めに立てる

年齢と共に脳や体の機能は衰えていくものだと、あきらめたりしないで、できるだけ頭を使ったり、足腰を鍛えたりする習慣を身につけようとしている熟年層も増えてきています。

いくら平均寿命が長くなっても、健康寿命が短ければ人生は楽しく過ごせないからです。

ただ、公務員などを定年退職した男性が、ポックリと亡くなってしまうこともあるように、それまで長く現役で続けてきたことから引退することは、前もって退職後の楽しいプランをいろいろ立てていた人ではない限り気が抜けてしまい、急に気力も体力も落ちたりしてしまうことが多々あります。

助けることだけが親孝行ではない

私の父は仕事一筋のサラリーマンでしたが、同時にマラソンや盆栽、そして勉強を兼ねた校正のアルバイトなどをしていたため、定年後も自分なりに忙しく日々を過していました。

ただ、あるとき草刈りを熱心にしている際に、腰を痛めてしまい、思っていたよりも重症であったためしばらく歩行が不自由になってしまいました。

ちょうど年末でしたので、帰省した私は「お父さんの代わりに家の大掃除をするね」といって、忙しく動きまわっていましたが、助かったと喜んでくれると思っていた父は、さびしそうな表情をして「俺は何もできなくなったなあ」と、つぶやきました。私はハッとして、父の気持ちになっていなかったことを反省しました。

できることを見つけてあげる

父は楽な姿勢で座ることはできましたので、ワープロで校正のアルバイトは続けていました。

私は仕事柄、海外出張中の社員に日本のニュースを配信する担当でもいたので、父に日本の一週間のニュースをまとめる作業をアルバイトとして頼んでみることにしました。

すると父は大いに張り切って、新聞記事をスクラップにしたり、ワープロでまとめ記事を書くなどして、誤字脱字のない分かりやすい原稿を毎週届けてくれることになりました。

老後に開花する才能もある

その数年後に今度は母が股関節を痛めてしまい、しばらく寝たきりになってしまいました。

母は父とは違って、自分で文章を創作したり歌を歌ったりといったクリエイティブなことが好きでしたが、ベッドの上の生活が長くなるとすこし認知症の兆候が出てきてしまいました。

そこで私は、母に俳句や短歌を始めてみることを提案しました。

母方の血筋は文才のある人たちや国語の教師が多かったからです。

すると、私の期待以上に、母は素晴らしい句を即興で数多く書き始め、試しにそれを小さなコンテストなどに応募したところ、優秀作品に何度も選ばれたりしました。

俳句や短歌は、ベッドの横の窓から見える季節の風景からも創作できますので、母はいつも紙切れとペンを枕元において、何かを思いついたら書き留められるようにしていました。

そうしていくうちに、母の認知症の症状はいつの間にか消えていきました。

誰かの役に立てるしあわせ

パソコンをする老夫婦「趣味は人生を豊かにする」とは言われますが、長らく続いた経済不況の中で、生活のために仕事に忙殺されることが多い現代人にとって、老後の生活を豊かにするために、そして認知症予防も兼ねて趣味を持っておくことは、大切であると分かりながらも、なかなか難しい場合も多いでしょう。

けれども、私が父母を見て感じたのは、自分の書いたものが誰かに読んでもらえる、評価してもらえるという喜び、いいかえれば、自分が人の役に立っているということが生き甲斐と感じられていたように思います。

人間は、自分が誰かの役に立っていると実感できるときが一番しあわせなのだともいわれます。

認知症の予防以上に、生き甲斐を持てるようなことを、介護の現場で私たちはいろいろと考えてあげることがとても大切なのだろうと、私は自身の経験から身をもって学びました。

ライター/エンジェル