カルテ板と聴診器
日本の女性のがん死亡率の第一位と言われる大腸がん。発生する部位によって結腸がんと直腸がんに分類されます。

以前は日本人の大腸がんは直腸がんに多いといわれていたのですが、近年は結腸がんの発生が多くなってきているようです。
腸内環境は大腸がんの発生にどのような影響を及ぼしているのでしょうか。

 

大腸がんの原因とは?

遺伝的なもの、運動不足や腫瘍性大腸炎を長期間患うなど、原因と呼ばれるものは多々ありますが、一般的には高脂肪・低繊維の食事など、生活習慣の欧米化が発生率を高めているといわれています。

従来から「便秘を繰り返す人は便が大腸がんになりやすい」と言われておりました。
ですが、この説は肯定する意見と否定する意見でこれまでに二転三転しています。
2007年の厚生労働省研究班の調べで「便通が2~3日に1回でも大腸がんになる危険度は特に高まらない」と発表されました。

それでは、腸内環境は大腸がんに影響を及ぼさないのでしょうか?

 

高脂肪・低繊維食の腸内フローラ

西洋ではがんによる死亡率の中で2番目に高いものが大腸がんです。
それに対し、高繊維・低たんぱくの食事をする南アフリカの農村部では、大腸がんの発生率はとても低く、がん化する可能性のあるポリープすらめったに見られないそうです。
同じアフリカを起源とするアフリカ系アメリカ人でも、南アフリカ農村部の人と比べると食生活による腸内フローラの差が確認されています。

南アフリカ農村部の人は、炭水化物発酵細菌と短鎖脂肪酸を生産する細菌の数が多いようで、特に短鎖脂肪酸の一種である酪酸には、抗炎症作用と腫瘍抑制作用がある事が知られています。〈過去記事「短鎖脂肪酸ってナニ?」

対して、アフリカ系アメリカ人には胆汁酸代謝細菌の数が多いのです。

胆汁酸の代謝産物の一部には発がん性のある物質が確認されています。

便秘が大腸がんの原因になる理由と言われているのは、便が排泄されない事により、この胆汁酸代謝物質に腸壁が長時間触れてしまうと考えられているためです。

 

食生活で大腸がんになりやすい腸内フローラになる!?

人体模型

2015年4月28日アメリカのピッツバーグ大学医学部を含む国際共同研究グループが電子科学雑誌ネイチャー・コミュニケーションズに「大腸がんの少ないアフリカの人に2週間食生活を変えてもらうと、大腸がんになりやすい腸の状態に変わってしまった」という報告をしました。

報告では南アフリカ農村部の人に、2週間西洋風の高たんぱく・高脂質・低繊維の食事をしてもらう実験を行なったところ、腸内壁の細胞交換の速度、食物繊維の発酵の程度、がんリスクに関連する細菌の代謝活動、炎症に関係する検査値が西洋人のそれと入れ替わってしまったというのです。

さらに、同じ地域を起源とするアフリカ系アメリカ人に食事を西洋のものから南アフリカ農村部の高繊維・低たんぱくの食事に2週間変えてもらう実験も行ないました。
すると高繊維・低たんぱくの食事をしたアフリカ系アメリカ人は、腸内細菌の種類が変化し、短鎖脂肪酸を生産する細菌の増加が見られ、特に抗がん作用を持つと考えられている短鎖脂肪酸の一種、「酪酸エステル」の生産が増加しました。

酪酸エステルは、免疫の調整役となり炎症を抑制する効果のある「制御性T細胞」を増やす物質として関心が高まっています。

 

注意したい腸内環境変化のサイン

これらのことにより、やはり腸内フローラと大腸がんの関係は無関係とは言いがたいと思われます。

人にはそれぞれのリズムがありますから、便通が2~3日に1回でも、それ自体が体の異常というわけではありません。下剤などで無理に排泄を促す事は、かえって腸の機能を弱くしてします。

注意したい事は、そのサイクルが変わってきた場合です。
腸内の善玉菌は加齢によりその数は減少していきます。善玉菌が優勢なうちは良くても、加齢により善玉菌が減り悪玉菌の割合が多くなると、有毒物質の量も増え、腸管免疫の機能が鈍り発がん物質への抵抗力も弱くなってしまいます。

また便秘にはいつくかの種類があります。
自分の便秘にどういった原因が考えられるのかを知るのもよいと思います。
→「解説|便秘には色々な種類がある

「以前より便秘がちになった」「排便がない期間が長くなった」など、腸内環境が変わったサインを見逃さないようにしましょう。

 

参考文献
Nature Japan「アフリカ系アメリカ人の食事と大腸がんリスク」
http://www.natureasia.com/ja-jp/research/highlight/9878
O’Keefe SJ et al.Fat, fibre and cancer risk in African Americans and rural Africans.Nat Commun. 
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25919227
Two-Week International Diet Swap Shows Potential Effects of Diet on Colon Cancer Risk. University of Pittsburgh Medical Center News Releases. 
http://www.upmc.com/media/NewsReleases/2015/Pages/diet-swap.aspx