手をつなぐ熟年夫婦よく幼い女の子に対して、「女は子供のころから女よ」といったりするいっぽうで、妙齢の女性に対しても、「女は幾つになっても女ですから」などといったりもします。

かたや男性のほうは、「男はいつまでたっても子供」といわれ、おじいちゃんになってもエッチなものに関心がある男性に対しては、「いい歳をして、みっともない」とか「ちょっと変な感じで崩れてきたのかしら」と心配されたりもします。

どうやら女性と男性では、自分の性に対する意識の持ち方が違っているようです。

90代のKさんと青年ヘルパー

私は隣家で在宅介護を受けている90代の女性Kさんのお宅によくお邪魔して、ときどき話し相手になったりしていたのですが、訪問介護ヘルパーが来ているときと重なることも多く、ヘルパーの方も交えて、楽しく会話を楽しんでいました。

Kさんは気さくに誰にでも話しかける人でしたので、毎日さまざまなヘルパーさんを相手に、自分が若かったころの話を何度も聞かせていました。

そんなある日、ある若い男性のヘルパーさんが昼食を作っている横で、Kさんはいつもの気さくな笑顔ではなく、少し頬をピンク色に染めて、しおらしく下を向いて食事を待っていました。

私が、「Kさん、元気?」と声をかけると、「元気だわよお!」といつもの受け答えをする代わりに、「ええ」と、おしとやかに返事をしました。

私は鈍感でしたので、そのときは気づかなかったのですが、後でKさんの娘さんに聞いたところ、その若いヘルパーさんはKさんの大のお気に入りで、どうやら淡い恋心を持っているようだとのことでした。

淡い恋心を知る

その後も、その若い男性ヘルパーさんが来訪中に私がKさんの玄関口に入ると、「キャッキャッ」と、弾けるようなKさんの笑い声が聞こえてきて、それはまるで乙女のようでした。

やがてヘルパーさんが帰っていった後で私はKさんに、「今のヘルパーさんは素敵な感じの人だねえ」というと、彼女は「ええ、そうなの。でも彼には恋人がいるの」と、少し残念そうにつぶやきました。

私はそのとき、「90歳をゆうに超えていても、女性はいつまでも女性でありつづけるんだなあ」と思うと同時に、いつもよりずっと活き活きとして、若々しくも見えるKさんを目の当たりにして、たとえ淡いものであっても恋心は女性の心と体を新鮮にしてくれるものなのだろうと実感しました。

女性としての自覚が意識を目覚めさせる

たしかに、高齢者の施設を訪問してお化粧のボランティアをする人たちについてテレビで見たことがあり、薄化粧をほどこされたお年寄りたちがまるで眠りから覚めた白雪姫のように、あきらかに表情が奥底から変わってきているのが分かりました。

同様に、介護施設で犬などのペットと触れ合ってもらうボランティア活動も、男女のいずれの高齢者に対しても効果が大きく、みなが笑顔になって、癒されているのを見たことがありますが、化粧は女性のみに限定されたことですので、種類が違うものなのでしょう。

ハートと口紅

私の母と青年医師

このことは、その後に私の実母に対しても、その効果を実感させられる出来事がありました。

母が介護施設に入所する前に、治療を受けた大学病院で、30代くらいの爽やかで優しい男性医師(主治医)が、母の病室に様子をうかがいにきたときのことです。

母がいうには、間食を禁じられていた母に対して、その医師が看護師たちに見えないように母に背中を向けたまま、手を後ろにまわしてキャンディを手渡してくれたそうです。

そのような特別な思いやりに母は心をときめかせたようで、「ねえ、あれが初恋っていうものなのかなあ」と、先立った夫(私の父)が聞いたら驚くような言葉を口にしました。

そして、そのときの母の表情は、Kさんと同じように乙女そのものといった感じで、いつもは寝てばかりで体がだるいと訴えていたのですが、その大学病院の医師の話をしている間はまるで病身でいることも、そして高齢であることも忘れたかのように見えました。

恋のチカラを介護に役立てる

女性の高齢者の場合、ちょっとしたお化粧や淡い恋心によって、自らの女性を意識すること(女性らしさに再び目覚めることは)、もしかしたら、どんなものよりも、心身を若返らせてくれるものかもしれません。

私はその後に母に「冬のソナタ」のDVDをプレゼントし、母は夢中になって観ていました。

ライター/エンジェル